定額残業代が、うまくいかない、7つの本当の理由を、本日は、あなたと一緒に考察していきます。
こんにちは。渋谷区の特定社会保険労務士の髙山英哲です。https://www.1roumshi.com/
定額残業代とは、時間外労働割増賃金、休日労働割増賃金、
深夜労働割増賃金を毎月、定額で支払うことです。
最近は多くの会社で導入されています。
あなたの会社では、いかがですか?
ただ、この定額残業代の運用については、労働紛争が後を絶ちません。
それは、なぜだと、思いますか?
すぐ思いついた方もいるでしょうが、あなたも、少し考えてみてください。
「制度が難しいから」「口約束でやってるから」「そもそも運用がわからないから」・・・
様々な意見があると思います。
定額残業代が、うまくいかない理由は、実にシンプルです!
それは、就業規則、労働契約整備、運用方法の誤り、不足しているなど
明確な理由があるからです。
そこで、今回は、あなたと「定額残業代が、うまくいかない、7つの本当の理由」を考えていきます。
私たちで、ステップ・バイ・ステップで、すすめていきましょう。
申し訳ありません。
最初に断っておきますが、今回のブログは、長文です!
4分程、お付き合い願います。
まずは、東京労働局からの「監督指導による賃金不払残業の是正結果」から、みていきましょう!
時間外・休日及び深夜労働に対する割増賃金の支払が適正に行われていないと
疑われる企業に対して監督指導の結果。ほぼ毎年、東京労働局はこの時期に発表します。
【監督指導による賃金不払残業の是正結果(平成26年度)】
平成26年4月から平成27年3月までの1年間(平成26年度)において、100万円以上の遡及支払が行われた企業の状況は次のとおりです。
今年注目すべき点は、平成22年度以降、企業数は概ね横ばいで推移しているが、対象労働者数及び遡及払金額は平成26年度において大幅に増加していることです。
企業での最高支払額は9億4430万円、次いで6億3024万円であり、これらを含めて支払金額が1,000万円を超えた事案は34件であった。
非常に厳しい数字です。長時間労働=ブラックと叫ばれていますが。。考える必要があります。
事例では、定額で支払う割増賃金の範囲を就業規則等において明記していなかったため、割増賃金が不払となっていたものもあります。
【監督署の指導内容】
一部役職者に対し、基本給の一部を割増賃金に相当するとしながら、その旨を就業規則等において明示していなかったため、過去に遡って不足となっている割増賃金を支払うよう指導した。
【是正方法】
過去に遡って割増賃金を清算するとともに、再発防止策として、基本給に含まれる割増賃金の範囲が就業規則において明記されることにより、労使間における共通認識の形成が図られた。
【遡及支払額及び対象労働者数】
約9億4000万円 約600人
定額残業代制は、残業の発生が避けられない業務に就く社員の残業代支払いについて,よく見られる残業代対策です。
一定時間の残業代をあらかじめ月額給与に含めて支給する制度で広く普及しています。
定額残業手当を固定残業手当といわれる場合もありますが、名称が違うだけて同じものだと考えられます。
定額残業手当は時間外労働割増賃金(休日労働割増賃金、深夜労働割増賃金を含むこともあります)を一定額で支払うという制度です。
法的に定義付けられているものではありません。
少なくとも存在することが許容されています。定額残業手当とはそういうものです。。
あなたの会社でも導入されていますか?
給与明細書に「定額残業代」「定額割増手当」「定額時間外労働手当」「定額時間外割増手当」「固定残業代」「定額割増手当」「固割増手当」「固定時間外労働手当」「固定時間外割増手当」「固定時間外労働手当(○○時間相当分」等の記載があれば導入されているものと考えられます。
サービス業、飲食業、運送業等を中心として私も相談を受けることが少なくありません。
ただし、導入には慎重に対応をしてください。
その制度設計や導入手続、実際の運用を適切に行わなければ、紛争が発生したときに思わぬ結果となるからです。
昨今、定額残業代制については、非常に厳しい判例が少なくありません。。。
と、言うよりは多い。
そこで、今回は、定額残業制度が、うまくいかない本当の理由【7つのポイント】を考察していきます。
言いかえれば、定額残業代が有効な制度と認められるよう、基本7つのポイントを学んでいきましょう。
理由1 定額残業代部分とそれ以外の賃金の区分が明確に判別できて、いない
定額残業代部分とそれ以外の賃金の区分が明確に判別可能にするためには、基本給とは別の手当として支給する方法(定額手当方式)と基本給に含めて支給する方法(定額給方式)の2とおりがあります。
運用としては、基本給とは別の手当として支給する方法(定額手当方式)がわかりやすいと思います。
弊所も導入を検討される会社には、(定額手当方式)をおすすめしています。
手当の定め方としては「時間外労働割増賃金として30,000円支払う」と定める「金額設定」と「時間外労働割増賃金30時間分」と定める方法の「時間設定」の2種類があります。
「金額設定」「時間設定」についてはメリット、デメリットがあります。
金額設定の場合は,時給単価が異なれば見込まれる時間外労働時間数が異なってくる点が問題です。
同じ5万円の定額残業代でも,割増賃金単価が2,500円の者であれば20時間分ですが,割増賃金単価が5,000円の者であれば10時間分です。
私が言いたいことは、割増賃金単価高い社員の方は時間外労働時間数が減ってしまうということです。
公平に時間数を設定することを考える場合は、けっこう面倒です。
金額のみの明示は時間数が不明確なので,個別に労働契約書、定額残業手当の同意書等の書面契約をする必要が生じます。
「時間設定」の場合はそのような心配はなく運用は簡単です。
例えば、「時間設定」で40時間分と定めた場合,時間外労働時間数と手当額を給与明細に記載する必要があります。
また,手当欄は,「定額残業代」と「40時間を超える残業代」で別の欄(時間外を設けるのがわかるようにしてください。
(例):時間外労働割増賃金(定額部分):52,000円(40時間相当分)
:時間外労働割増賃金(差額部分): 6,370円 (5時間相当分)
定額残業代運用の給与明細書
「時間設定」をおすすめいたします。賃金台帳の記載事項にも同じように記載をしてください。
理由2 定額残業代の額が時間外労働割増賃金単価×時間外労働時間数で算出した額以上になるように設計されて、いない
時間外労働割増賃金の単価が2,500円の者であれば、時間外労働時間数が20時間分だと、定額残業代は50,000円以上です。
時間外労働割増賃金の単価が5,000円の者であれば、時間外労働時間数が20時間分だと、同じ20時間でも定額残業代は100,000円以上です。
定額残業代の設計方法を誤らないように注意をしてください。
繰り返しますが、時間外労働割増賃金の単価が異なれば見込まれる時間外労働時間数が同じでも定額残業代は異なります。
理由3 就業規則、賃金規程、労働契約書等に「定額残業代」制度の記載がない。さらに就業規則、賃金規程は所轄労働基準監督署へ届出をして、いない
従業員へ主知は不可欠で注意をしてください。知らない、聞いていないと。。後々のトラブルを避けるためには、書面で確認書等を作成のうえ運用するがよいと思います。
「定額残業代の明示」例です。
明示方法は、労働条件通知書よりも「労働契約書」での運用がいいでしょう。
理由は社員の記名押印があるため定額残業代の制度、運用について繰り返しになりますが、知らない、聞いていないと。。といった後々のトラブルを避けるためです。
理由4 法律上支払うべき割増賃金が定額残業手当額を上回ったときは,法定額に達するまでの差額を支払って、いない
例えば,「定額残業手当」を「月額3万円」を支給していた場合。その月の時間外労働に対し法律上支払うべき時間外労働割増賃金が3万円を下回るきは定額残業手当である3万円を支払います。
業務多忙のため法律上支払うべき時間外労働割増賃金が3万円を上回るときは「定額残業手当」3万円に加算し差額を支払うということになります。
また,ある月の法定の時間外労働割増賃金が4万円で、翌月の時間外労働割増賃金が2万円になれば,差し引き同じであるから,3万円となった月に追加支払はいらないということにもなりません。
労働基準法24条2項は時間外労働割増賃金について,月ごとに決裁を行い支払うことを求めています(毎月払いの原則)。
注意してくださいね。
理由5 不利益変更が生じる場合には,従業員と書面で「定額残業代に関する同意書」を締結して( 新たに定額残業代制を導入する場合)、いない
「定額残業代に関する同意書」例です。参考にしてみてください。不利益変更に該当する場合は「定額残業代に関する同意書」の締結は不可欠です。
従業員に説明をして、同意書にサインをもらってください。
理由6 給与明細書に定額残業代に関する時間外労働の時間数と残業手当の金額を明示して、いない
「給与支給明細書」例です。定額残業代運用の給与明細書
給与計算ソフト会社のサポートセンターへ設定方法は、必ず確認をした方がいいでしょう。
運用方法を説明のうえ、サポートを受けてくださいね。最近は、サポートセンターへも同じような質問が寄せられています。
理由7 定額残業代設定の上限は45時間以内では、ない(ザ・ウィンザー・ホテルズインターナショナル事件(札幌高裁平成24年10月19日判決労働判例1064号)
ザ・ウィンザーホテルズインターナショナル事件は、定額残業代に対して厳しい判決でした。
調理人、パティシエである従業員に職務手当(定額残業代)を月95時間分に相当する時間外労働割増賃金として支払っていた事案です。
札幌高裁は、45時間の定額残業代についての合意があったとは認定し,職務手当を45時間相当額の定額残業代としか認めませんでした。
弊所ではこの判例により、定額残業代設定の上限は45時間以内とするよう説明をし、ご理解をいただくように提案をしております。
以上、「基本7つのポイント」でした。えっ!基本で7つもあるの~?応用編は?
はい!そうですね!定額残業代は、機会があれば、また取り上げます。期待してください。
定額残業代が有効な制度と認められるよう、基本の7つのポイントを厳守しましょう! |
①定額残業代部分とそれ以外の賃金の区分が明確に判別可能にすること。 |
②定額残業代の額が時間外労働割増賃金単価×時間外労働時間数で算出した額以上になるように設計すること。 |
③就業規則、賃金規程、労働契約書等に「定額残業代」制度の記載があること。そして就業規則、賃金規程は所轄労働基準監督署へ届出をすること。 |
④法律上支払うべき割増賃金が定額残業手当額を上回ったときは,法定額に達するまでの差額を支払うこと。 |
⑤不利益変更が生じる場合には,従業員と書面で「定額残業代に関する同意書」を締結する( 新たに定額残業代制を導入する場合)こと。 |
⑥給与明細書に定額残業代に関する時間外労働の時間数と残業手当の金額を明示すること。 |
⑦定額残業代設定の上限は45時間以内にすること (ザ・ウィンザー・ホテルズインターナショナル事件(札幌高裁平成24年10月19日判決労働判例1064号)。 |
社会保険労務士、渋谷区の高山英哲でした。
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