渋谷区の社会保険労務士です。
こんにちは、高山英哲です。
職場のパワーハラスメント。
相手の尊厳や人格を傷つける許されない行為だ。
決して職場であってはならない。
なぜなら、職場環境を悪化させるものであり、
問題を放置すれば、人は仕事への意欲や自信を失う。
こうした問題を放置することで、社員は仕事への意欲や自信を失い、さらに心身の健康や命すら危険にさらされる場合だってある。
だから職場のパワーハラスメントはなくしていかなければならない。
さらに企業にとっても、職場全体の生産性や意欲の低下など、周囲の人への影響や、企業イメージダウンを通じて、経営上の大きな損失へとつながる。
有識者検討会でも、パワハラ防止措置の「義務化」を検討。
学者や労働側委員からは「措置義務を中心に検討を進めることが望ましい」との意見が多い。
では、パワハラ防止措置は、今回「義務化」と、なったのか。
答えは「ノー」、だ。
なぜなら「上司による指示や指導が躊躇される」「パワハラに該当する行為には不明確さがある」「上司と部下との認識のずれで必要以上の摩擦がうまれる」といった、企業側委員の意見を重視したからだ。。
そこで、今回は職場のパワーハラスメントの定義、実効性のある防止対策を限定にし、あなたと一緒に考えていく。
今後の参考になるはずだ。
それでは、早速、チェックしていこう。
「職場のパワーハラスメント防止対策についての検討会」報告書(参考資料)
いま、押えておきた「パワハラ」の定義とは?
パワハラといっても、様々な意見、考えがある。
そこで、いまの、パワハラの定義とは、なにかを、最初に考えていく。
裁判例で示された、パワハラの定義は「職場のパワーハラスメント防止対策についての検討会報告書」参考資料では、次のとおり明示されている。
■S事件(鳥取地判平20・3・31)
全体として、原告の勤務先ないし出向先であることや、その人事担当者であるという優越的地位に乗じて、原告を心理的に追い詰め、長年の勤務先である被告会社の従業員としての地位を根本的に脅かすべき嫌がらせ(いわゆるパワーハラスメント)を構成する。
「優越的地位に乗じて」「心理的に追い詰め」「脅かすべき嫌がらせ」の3点で、パワハラの実態が職場に存在すると、いうことだ。
K事件(東京地判平21・10・15)【労判999号54頁】 、S事件(東京地判平20・10・21)【労経速2029号11頁 】 ※
パワーハラスメント(組織・上司が職務権限を使って、職務とは関係ない事項あるいは職務上であっても適正な範囲を超えて、部下に対し、有形無形に継続的な圧力を加え、受ける側がそれを精神的負担と感じたときに成立するものをいう、と一応定義する。以下「パワハラ」という。)。
職務権限をつかって、ガンガンやられたら、部下はたまったもんじゃない。精神的負担も、大きくなることは間違いない。
F事件(大阪地判平24・3・30)【判タ1379号167頁 】
同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為などと定義される。
職場環境の悪化も、困ります。背景として、地位や人間関係の優位性があるなら重大な問題だ。
・U事件(東京地判平24・3・9) 【労判1050号68頁】※
世上一般にいわれるパワーハラスメントは極めて抽象的な概念で、内包外延とも明確ではない。そうだとするとパワーハラスメントといわれるものが不法行為を構成するためには、質的にも量的にも一定の違法性を具備していることが必要である。したがって、パワーハラスメントを行った者とされた者の人間関係、当該行為の動機・目的、時間・場所、態様等を総合考慮の上、「企業組織もしくは職務上の指揮命令関係にある上司等が、職務を遂行する過程において、部下に対して、職務上の地位・権限を逸脱・濫用し、社会通念に照らし客観的な見地からみて、通常人が許容し得る範囲を著しく超えるような有形・無形の圧力を加える行為」をしたと評価される場合に限り、被害者の人格権を侵害するものとして民法709条所定の不法行為を構成するものと解するのが相当である。
※ 本事件の控訴審においては、上記の判断基準を示すことなく、被告の行為それぞれについて個別具体的に不法行為性を判断。その結果、一審において不法行為とされた行為以外の行為についても、不法行為性が是認。
職場でおこる、パワーハラスメントの具体的な行為とは?
あなたは、裁判例から、パワーハラスメントの定義は理解できた。
ここからは、職場でおこる、具体的な行為を示し、さらに深く解説していく。
職場のパワーハラスメントの行為類型として、考えられるは、次の6つの行為だ。
①暴行・傷害(身体的な攻撃)
☑上司が部下に対して、殴打、足蹴りをする。
☑業務上関係のない単に同じ企業の同僚問の喧嘩。
②脅迫・名誉毀損・侮辱・ひどい暴言(精神的な攻撃)
☑上司が部下に対して、人格を否定するような発言をする。
☑遅刻や服装の乱れなど社会的ルールやマナーを欠いた言動・行動が見られ、再三注意してもそれが改善されない部下に対して上司が強く注意をする。
③隔離・仲間外し・無視(人間関係からの切り離し)
☑自身の意に沿わない社員に対して、仕事を外し、長期間にわたり、別室に隔離したり、自宅研修させたりする。
☑新入社員を育成するために短期間集中的に個室で研修等の教育を実施する。
④業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制、仕事の妨害(過大な要求)
☑上司が部下に対して、長期間にわたる、肉体的苦痛を伴う遇酷な環境下での勤務に直接関係のない作業を命ずる。
☑社員を育成するために現状よりも少し高いレベルの業務を任せる。
⑤業務上の合理性なく、能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや仕事を与えないこと(過小な要求)
☑上司が管理職である部下を退職させるため、誰でも遂行可能な業務を行わせる。
☑経営上の理由により、一時的に、能力に見合わない簡易な業務に就かせる。
⑥私的なことに過度に立ち入ること(個の侵害)
☑思想一信条を理由とし、集団で同僚1人に対して、職場内外で継続的に監視したり、他の社員接触しないよう働きかけたり.私物の写真撮影をしたりする。
☑社員への配慮を目的として、社員の家族の状況等についてヒアリングを行う。
5つのパワーハラスメント対応策
それでは、ここから、対応策を具体的にみていく。
どれも 「職場のパワーハラスメント防止対策についての検討会」で協議されたことだ。
具体的かつ実行可能性が高いものもある。是非チェックしてほしい。
① 行為者の刑事責任、民事責任(刑事罰、不法行為)
パワーハラスメントが違法であることを法律上で明確化する。行った者に対して、刑事罰による制裁や、被害者による加害者に対する損害賠償請求の対象とすることが対応策案が示された。
この対応策案については、パワーハラスメントの発生が強力に抑制されることやパワーハラスメントが不法行為として損害賠償請求の対象になること
が明確になる。
民事上の救済や事業主による防止対策が進むといったメリットもある。しかしながら、業務上の適正な指導との境界線が明確ではない。構成要件の明確化が難し<、制裁の対象の範囲が限定される。根本的な解決にはつながらない可能性があること等のデメリットが指摘された。
② 事業主に対する損害賠償請求の根拠の規定(民事効)
事業主は職場のパワーハラスメントを防止するよう配慮する旨を法律に規定する。その不作為が民事訴訟、労働審判の対象になることを明確化し、パワーハラスメントを受けた者の救済を図る対応策案が示された。
この対応策案は、パワーハラスメントが民事上の不法行為に当たり得ることをより明確にできることが期待できる。さらに民事訴訟や労働審判による損害賠償請求などの民事上の救済手段の活用が促進されることがメリットがある。
またパワーハラスメントの違法性を明確にし、企業風土が改善の期待ができる。将来的にはこの対応策案を目指すべきという意見もある。しかしながら、最高裁判例などで定着した規範がない。法律要件を明確化し、労使等の関係者に理解が得られる規定を設けることは困難だ。
③ 事業主に対する措置義務
パワーハラスメントが生じない労働者が就業しやすい「職場環境の整備」を図ることが対応策案として示された。この対応策案は、規定の仕方の工夫で推奨意見があった。
もし違反があった場合に行政が指導できる、セクシュアルハラスメントや妊娠・出産・育児休葉等に関するハラスメントについて既に課されている措置養務と複合的・総合的に取り組み得ることがメリットがある。一方、防止のための効果が弱いことがデメリットとして意見がある。
一定程度の効果が期待できるということや法律に基づく義務となった上で指針により実施すべき措置が示されることで中小企業を含めた事業主による取組が進むことが考えられる。
④ 事業主による一定の対応措置をガイドラインで明示
事業主に職場のパワーハラスメント防止等のための雇用管理上の一定の対応を講ずることをガイドラインにより働きかけ、個々の職場で労働者が就業しやすい職場環境の整備を図ることが対応策案として示された。
これは、職場風土の改善も含め、実情を踏まえた自主的な防止対策が推進される。一方、行為者に対する制裁としての効力が弱い。さらに行政等による強制力も弱いことから取組が進まない懸念があることがデメリットだ。
⑤ 社会機運の醸成
職場のパワーハラスメントは、労働者のメンタルヘルス不調や人命にも関わる重大な問題だ。
職場全体の生産性や意欲の低下やグローバル人材確保の阻害など経営的にも大きな損失であることを、社会全体の機運の醸成を図ることが対応策案として示された。
さらに、実態を引き続き把握し、職場のパワーハラスメント防止対策の効果を分析すべきとの意見も示された。この対応策案については、先に示したいずれの対策を実施することとした場合も、それらと複合的・総合的に取り組み得ることや、既にある程度取組が行われていることから、事業主も取り組みやすいことがメリットとして指摘された。
以上、5つの対応策。いずれの対策を実施する場合も、複合的・総合的に取り組みが必要だ。
いますぐ動くことで、パワーハラスメント防止の実現可能性を高めることに、つながる。
「職場のパワーハラスメント防止対策についての検討会」報告書(参考資料)
最後まで、お付き合いいただき、ありがとうございました。
あなたの会社の、改善の一助になれば幸いである。
渋谷の社会保険労務士の高山英哲でした。
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