渋谷区の社会保険労務士です。

こんにちは、高山英哲です。高山英哲

今回学ぶことは、業務中チャットを私的利用をした社員。会社が懲戒解雇をした判例である。

まず、いわゆる“チャット”とは、何か。「コンピュータネットワーク上を利用した「リアルタイム」コミュニケーション」である。

私は素人だがチャットを仕事で使ったことがある。慣れないうちは手こずり長時間になる。

IT技術を駆使しているあなたなら簡単かもしれないが、それでも手間隙はかかるだろう。

あなたも知っているとおり、昨今ソフト会社のカスタマーサポートセンター。電話、メールよりも利用されている。今後はさらに普及するだろう。それでも長時間を費やすことになるし、便利なツールを使いこなすことで私的利用も容易になる。

そこで今回は私たちで「職務専念義務違反の懲戒解雇は有効、裁判所が「労働時間」ではなく「私的時間」とした理由」を一緒に考えていく。

 

  ドリームエクスチエンジ事件
審判一審(地方裁判所)
裁判所名東京地方裁判所
事件番号平成27年(ワ)8670号、24736号
裁判年月日平成28年12月28日
裁判区分判決
全文ドリームエクスチエンジ事件(東京地方裁判所,平成28年12月28日判決)PDF(Adobe Acrobat)
根拠条文労働契約法 第15条(懲戒)PDF(Adobe Acrobat)

1.そもそも「職務専念義務」の正体、その姿とは?

解雇された元社員との争点のひとつが「職務専念義務」違反か、否かである。

ここからはまず「職務専念義務」の正体、その姿を共に考察していく。

それでは説明しよう。

職務専念義務とは「使用者の指揮命令に服しつつ職務を誠実に遂行すべき義務」のことである。

つまり労働時間中は仕事に専念し他の私的活動を差し控える義務があるということだ。

1-1 服務専念義務を就業規則の服務規律へ書くべき理由

多くの会社の就業規則の服務規律の条文で、こう書いてある。
「従業員は、会社の指示命令を守り、職務上の責任を自覚し、誠実に職務を遂行しなければならない」。

じゃあ、就業規則の服務規律の明記していない場合は、どうか?

確かに服務規律は就業規則の絶対記載事項ではない。

そのことで「就業規則に明示されいないんだから関係ないじゃん」と指摘する意見もある。さらに従業員へも周知されていないことに対して「義務」だから、こうしろ、ああしろと言うの容易ではないとの考えもあるだろう。

しかしながら明記されていなければ職務専念義務はないかというと、そうではない。なぜなら職務専念義務は仕事内容、職務の実態、労働義務の内容から導き出されるものだからだ。あなたも理解できるだろう。

このことから従業員への行為規範である就業規則の服務規律には明記しておいたほうが望ましいといえる。

1-2 服務専念義務の違反を最高判例から考察する

それでは過去の裁判ではからも考察する。

目黒電報電話局事件(最高裁三小 昭52.12.13判決)を解説しょう。

 判決では「職員は全力を挙げてその職務の遂行に専念しなければならない」との日本電信電話公社法の規定をあげた。要するに職員は「勤務時間及び職務上の注意力のすべてをその職務遂行のために用い職務にのみ従事しなければならない」とのことである。

この判決だけをみれば、職務専念義務は非常に強いものである。

 

2.問題はチャット時間が「私的」なのか「労働」なのか、ではない

あなたの会社で、業務時間中に私的なチャットを行った場合、その対処方法をふまえ解説しょう。

裁判所は業務時間中に私的なチャットを行った場合、従業員としての職務専念義務違反が問題になるとした。

職務専念義務違反理由は、次の3つだ。

①チャットの回数の異常に多いこと
②1日当たりのチャット概算時間が長いこと
③チャットの相手が社内の他の従業員であること

以上の3点は社会通念上許される範囲を逸脱している。

よって職務専念義務に違反するとし職場秩序を乱したし懲戒事由になるとしている。

そもそも懲戒処分の相当性からみると業務中のチャットは単なるチャットの「私的利用」にとどまっていない。

 

3.懲戒解雇を有効とした理由は、ひとつだけ

チャットは、単なる「私的利用」にとどまっていない。それって、どういうことか。

元従業員はチャットを使って顧客情報の流出を唆した。これはって会社信用を毀損した行為だ。

さらにさらにチャットには、他従業員に対する誹謗中傷およびセクハラに当たるものもある。

あなただったら、これらの行為はどう考えるか。チャットが「私的」なのか「労働」なのか判断することを超えていると思わないか?

要するに問題は「就業」に関する規律および「職場秩序」を乱しているか、どうかだ。

以上のことから、裁判所はチャットの態様、悪質性の程度、本件チャットにより侵害された企業秩序に対する影響に加え、弁明の機会を与えられた際の従業員が本件チャットのやり取り自体を全部否定していたことを指摘。

したがって裁判所は懲戒解雇は客観的に合理的な理由があり社会通念上相当であると判示した。

4 職務専念義務違反を就業規則に書くだけでは、意味がない

同じよう事案が起こらないように、今後会社はどうすべきか。

まず最初、あなたが行動することは「服務規律の見直し」と「懲戒規定の変更」をすることだ。この2つをセットで行うことだ。

就業規則に服務規律を定めても、その違反に対して何らのペナルティも課されないのであれば誰も守らない。

そこで服務規律違反に対する懲戒についても就業規則に定めるのだ。
就業規則の服務規定と懲戒規定は企業秩序を維持するための″車の両輪″である。それは表裏一体のものといえる。

2点でまとめるとこういうことだ。

①服務規律違反に対しては、懲戒処分をもって対応する。

②懲戒権の行使は労働契約に基づき使用者に認められたものである。とはいえ懲戒権の濫用とならないように要件等に留意する必要がある。

懲戒処分とは会社のルールを破った従業員への一種の制裁である。

その目的は服務規律を遵守させることで企業秩序を維持することだ。

最高裁は「企業秩序は、企業の財立と事業の円滑な運営の維持のために必要不可欠なものであり、規則の定めるところに従い制裁として懲戒処分を行うことができるとしている」(国鉄札幌運転区事件 最高裁三小 昭54.10.30判決)、と示している。

懲戒権は、2つの判例がある。

判例①「使用者は、広く企業秩序を維持し、もって企業の円滑な運営を図るために、労働者に対し、一種の制裁罰である懲戒を課すことができる」(関西電力事件 最高裁一小 昭58.9.8判決)

判例②「企業秩序維持の観点から労働契約関係に基づく使用者の権能として行われる」(ネスレ日本事件 最高裁二小 平18.10. 6判決)

つまり最高裁は、懲戒権には肯定的である。ゆえに労働契約に根拠づけられた使用者の権能(権利・能力)として捉えられているのだ。

したがって、あなたの会社は「服務規律の見直し」と「懲戒規定の変更」の2点を実践してほしい。

最後までお読みいただきありがとうございました。

  ドリームエクスチエンジ事件
審判一審(地方裁判所)
裁判所名東京地方裁判所
事件番号平成27年(ワ)8670号、24736号
裁判年月日平成28年12月28日
裁判区分判決
全文ドリームエクスチエンジ事件(東京地方裁判所,平成28年12月28日判決)PDF(Adobe Acrobat)
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渋谷の社会保険労務士の高山英哲でした。
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