社労士、渋谷の高山です。
労働判例を斬る:試用期間中の解雇が有効となった、3つのポイント
こんにちは。
今回は試用期間中の解雇について、一審では無効と判断されましたが、控訴審は解雇を有効と判断して一審と控訴審で結論が分かれた事例です。
試用期間中の従業員が作成した試算表や決算書が謝りがあり、会社は従業員として勤務させることが不適当であると判断。
試用期間中に解雇したところ、労働契約上の地位を有することの確認等を求めた事案です。
審判 | 二審(高等裁判所) |
裁判所名 | 東京高等裁判所 |
事件番号 | 平成28年(ネ)1885号、1918号 |
裁判年月日 | 平成28年8月3日 |
裁判区分 | 判決 |
全文 | 空調服事件(東京高等裁判所平成28年8月3日)PDF(Adobe Acrobat) |
労働基準法 | 第21条 (解雇予告の除外)労働基準法逐条解説(コンメンタール) |
コンメンタール (抜粋) | 空調服事件 (抜粋) |
東京高等裁判所は一審の解雇無効の判断を変更して、本件解雇を有効と判断した。
そこで、試用期間中の解雇が有効となった、3つのポイントを早速チェックしていきましょう。
そもそも試用期間の正体とは、なにか
試用期間とは、会社が特に正規従業員(正社員)の採用について広く設けている制度である。
具体的には、入社日から一定期間(通常は3~6ヵ月程度)を試用期間とし、その間、労働者に業務を遂行させながら従業員としての適格性を観察する。
労働者にとっては、気が張る期間であり、できれば避けて通りたい。受け入れがたい期間ともいえる。
試用期間中の働きぶり、またその結果として、問題がないと判断された労働者をあらためで正社員として本採用するというかたちをとっている。
試用期間中の労働者に対する留保解約権の行使
「使用者による試用期間中の労働者に対する留保解約権の行使は、本採用後の通常解雇より広い範囲で認められるべきである。」
これはみなさん、ご存知だと思います。
試用期間中の解雇は本採用と比較すれば広い範囲で認められます。
「解約権の留保の趣旨・目的に照らして、使用者において、採用決定後の調査や就職後の勤務状況等により、採用時に知ることができず、また知ることを期待できないような事実を知るに至った場合であって、その者を引き続き雇用しておくことが適当でないと判断することが客観的に相当であると認められる場合など、解約権を行使する客観的に合理的な理由が存在し、その行使が社会通念上相当として是認され得る場合にのみ許されると解される。」
これは、労働契約法第16条(解雇)で明示されています。解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。みなさんもご存知でしょう。
経歴、経験を有することを考慮しての採用だった
「会社が雇用したのは、元従業員における業況の拡大に対応した社内体制構築の一環だった。元従業員が社会保険労務士としての資格を有していた。」
社会保険労務士の有資格者での採用。当然、会社としての人事労務、労働・社会保険の手続きなどの期待はしますね。
「経歴からも複数の企業で総務(労務を含む)および経理の業務をこなした経験を有することを考慮した。労務管理や経理業務を含む総務関係の業務を担当させる目的であり、人事、財務、労務関係の秘密や機微に触れる情報についての管理や配慮ができる人材であることが前提とされていた。」
人事労務管理や財務面の能力・知識は当然持っていると、会社は判断したことになります。元従業員に対しての期待感は大きいといえます。
労務管理や経理業務を含む総務関係の業務を担当する従業員としての資質を欠くと判断
「企業にとって決算書などの重要な経理処理に誤りがあるという事態はその存立にも影響を及ぼしかねない重大事である。」
そのとおり。異義はありません。
「仮に担当者において経理処理上の誤りを発見した場合においても、まず、自己の認識について誤解がないかどうか、専門家を含む経理関係者に確認して慎重な検証を行い、自らの認識に誤りがないと確信した場合には、経営陣を含む限定されたメンバーで対処方針を検討するという手順を踏むことが期待される。」
過信があったということでしょう。
「元従業員は自らの経験のみに基づき、異なる会計処理の許容性についての検討をすることもなかった。手順を一切踏むことなく、全社員の事務連絡等の情報共有の場に過ぎず、組織的配慮を欠いた自己アピール以外の何物でもない。期待していた労務管理や経理業務を含む総務関係の業務を担当する従業員としての資質を欠くと判断されてもやむを得ないものである。」
報告、連絡などのコミュニケーション不足。これは否めませんね。
「資質を欠くと判断」とは、元従業員の期待の大きさからの、ものでしょう。
「採用するに当たり事前に承知することができない情報であり。」
ここは大きなポイントです。
「仮に事前に承知していたら、採用することはない労働者の資質に関わる情報というべきである。そうすると、本件解雇には、会社において解約権を行使する客観的に合理的な理由が存在し、社会的に相当であると認められる。」
私にはこの判決、イエス!納得です。
審判 | 二審(高等裁判所) |
裁判所名 | 東京高等裁判所 |
事件番号 | 平成28年(ネ)1885号、1918号 |
裁判年月日 | 平成28年8月3日 |
裁判区分 | 判決 |
全文 | 空調服事件(東京高等裁判所平成28年8月3日)PDF(Adobe Acrobat) |
労働基準法 | 第21条 (解雇予告の除外)労働基準法逐条解説(コンメンタール) |
コンメンタール (抜粋) | 空調服事件 (抜粋) |
社会保険労務士、渋谷区の高山英哲でした。
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